『齋藤研佑と森下アリスに告ぐ。一ヶ月後、君たちの展示会をやることになったから』
『え?どこで?』
『中国の成都。パンダで有名。知らない?』
『パンダはいいんだけどさ、宿代とか飛行機代とかどうすんの?』
『あ。もうこっちで全部手配した。問題ない?』
こんなアップテンポなメールがあった後に、ギャラリーの写真が送られてきた
『このデカい空間はナンですか?』
いきなりな状況を理解するのにコーヒー二杯分かかった
メールの主は、中国の成都出身でベルリンの大学に通い、卒業後もベルリンで様々な活動をしながら中国とドイツを股にかけて動き回っている男である
去年の夏
そんな彼がベルリンに来ていた時に友人の紹介で、その時にやっていたアリスの個展を見に来たんだ
『うぉ!!凄い絵だね!』
アリスの絵にノックアウトされた彼は直ぐにアリスにコンタクトを取り、絵を見る為に家に遊びに来る。そして、家に置いてあった僕の絵にもビビっと来たみたいだ
『君たちの絵は凄い!感動した!中国で何かやろうじゃないか!』
『はいはい。出来たらいいねぇ』
『絶対やろうよ!』
彼の言葉を軽く受け流した
『何かやろうよ!』こういう台詞はアーティストになってから何万回と聞いたが、何もないコトの方が圧倒的に多い。言う方も悪気があって言うわけじゃないんだろう。実際に何かやろうと気持ちが盛り上がっちゃったりするんだろうが、実際にコトを進めようとすると、なかなかに大変なコトであるのに気づき、いつのまにか気持ちがしぼむというのが定番だ
だから、僕も変な期待はせずに彼とアートの話をしたり、野原でバトミントンをしたりして純粋に楽しんだ
ただ、そのバトミントンのやり方が凄いのだ。普通さ、バトミントンって、5メートルくらい離れてポンポンって打ち合うじゃない?
彼は違う。15メートルくらい離れて強烈なスピードでどっちかがチカラ尽きるまで全力で打ち合う。後で聞いたんだが、スピードミントンと呼ばれるスポーツでベルリン在住の人によって考案されたスポーツらしいが。。あんま普及しない気がする。。
だって異様に疲れるもの。。
彼とそのスピードミントンをプレイして、倒れそうになってもギリギリまでプレイする彼の姿に好きな事には絶対に手を抜かない彼の姿勢を見た気がした
あ。この人は信用できる
アート関連の世界では信用できる人間も多いが、同時に平気で人を騙せるような人間も多い
でも人間だもの。最初から相手が本当に信用できる人間かなんて分からない。だから僕は相手を見る時に一つの基準を持っている
この人になら。。たとえ騙されても後悔しないなと思えた人となら疑わずに関係を持つという考えだ。ましてや彼はベルリンと中国を行き来する人間だ。何かあった時に行方不明になることも出来る人間だ
でも。信用出来た
それから彼がベルリンに来るたびに色々な交流を持った。彼は本気で中国で僕たちと何かをやろうとしていたみたいで、中国で色々と動き回っていたが、ベルリン在住の無名のアーティストの展示会を中国でやるという話をまとめるのは想像以上に大変なのだろう
なかなか話をまとめる事が難しいみたいだ。そりゃそうだ。僕だったらとっくに諦めてる
僕とアリスの絵は、結構大きいものもある事からそれなりに大きいスペースがないと難しい
資金もそれなりに必要だから、その問題も大きい
彼はそれでも諦めずに、僕とアリスに会うたびに『絶対やろうよ!』と言ってくれた。僕はその気持ちだけで嬉しかった
『絶対やろうよ!』
『ありがとう』
彼の気持ちは嬉しかったが、同時に無理だろうなとも思っていた。話がでかすぎる。。
そして、夏が過ぎ、秋が来て、冬が来る
僕とアリスは、その間にも様々な事で忙しくして、中国の事は頭の片隅に置いてはいるけれど、正直それどころじゃない忙しい日々を送っていた。だから彼には伝えた
『もしまとめられる具体的な話があるんだったら、もう具体的な形にしてね』
半分本気で、半分無理だろうって気持ちだった。それで忘れていた頃に彼からメールが来た
それが、冒頭のメッセージのやり取りである
『具体的な話にして持ってきて』と啖呵を切ったのはこっちなのに、いざ具体的に決められてしまうとびっくりするのは何でしょうね?
『いや。決めてくれとは言ったけどね。こういう大きいコトは事前に相談しあってだね』
『それだといつまでも決まらないと言ったのはそっちじゃないか』
『確かに。。言っちゃったね。。』
『もう人も雇ってこの展示会プロジェクトは動き出してます』
『マジ?』
『まじ』
わざわざベルリン在住の画家夫婦を中国にまで呼び寄せて、いきなりでかいコトをやろうとする。当然、彼のコストも労力も大きいだろう
『絵が売れなかったら大損ですよ?いいんですか?』
『いいんですよ。売れないコトは考えないんですよ』
アリスと僕の描いた絵はきっと人々に気に入ってもらえるはずと、僕たちよりも強く思ってくれている人がいる。そういう人たちの賭ける気持ちに画家は育てられていくのである
今回は彼から大事な事を教わった
自分がうまくいくと思ったものは絶対うまくいくと信じる事のできる信念の強さとそれを裏付ける行動力である
『絶対やろうよ!』
彼の言葉は本物だった
絵は描き終わった後に画家の手から離れる
絵が色々な出会いを運んできてくれる
絵が様々な場所へ連れて行ってくれる
冬が終わり、春が来た
次は、中国だ!
Exhibition : 雙象性 / Duality
開幕 Vernissage : 2018.04.21 (週六Sa.) / 15:00
展期 Exhibition : 2018.04.21 – 2018.05.05
地址 Address : 成都人民南路來福士廣場寫字樓 / 塔四 / 七樓 / Raffles City, Tower 4, 7th Floor
藝術家 Artists: Alice Morishita / Kensuke Saito
策展人 Curator: 周楓然 / Fengran Zhou
主辦 Hosts : 德國柏林 HdA ART 藝術机構 HdA ART BERLIN
承辦 Organizers : 璞育文化藝術空間 C.D.P. CULTURAL AND ARTISTIC SPACE
协辦方 Co-Organizers : 壹文研究所 OCILAB
成都風象文化傳播有限公司 Chengdu Fengxiang Culture Communication Co. Ltd.
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KENSUKE SAITO