チベット紀行 / 完 / 言葉の先にあるもの

チベット族自治州カンゼで、21日間に渡って滞在し、チベットのタンカアーティストPemaさんと交流し、共同作品を制作したり、現地で感じた事を作品にしたりするこのアートプロジェクトの成果を、中国は成都のギャラリー「文小博藝術收藏館」で、6月5日から7日の三日間にかけて、僕とアリスPemaさんの3人の合同展示会という形で発表する事になった

展示会の名称はBeyond Wordsとなる

展示会の様子を記す前に少し時間を巻き戻して、カンゼでの21日間に渡るアートプロジェクトのことを振り返ってみようと思う

以前の記事でも、異なる言語を持つ人たちとのコミュニケーションについて少し触れたが

チベット紀行 / vol. 02 / 死に対する意識の違い

その事について、もう少し掘り下げてみたいと思う

今回のプロジェクトでは、「異なる文化、言語を持つ人間同士のコミュニケーション」というのが、改めて大きい要素だったと思う。今、振り返ってみるとね。真っ最中の時は、そんなの考えてもいなかったよ。というか、毎日毎日が一生懸命だったから

アリスが考えてくれたBeyond Wordsという展示会タイトルの「Beyond」という言葉の意味は、「超えて」とか「先に」、「向こう」などの意味がある

「言葉の先に」

「言葉を超えて」

「言語の向こう側」

などの意味にも取れるが、今回のアートプロジェクトでは、言葉を超えたコミュニケーション力が試される局面が多かったように思う。このような局面はアリスにとってもなかなかにない体験だったんじゃないかと思う。アリスは、複数の言語を喋れるスキルを持っていて、英語、日本語、イタリア語、フランス語、ドイツ語を喋る事が出来る。中国でも都市部だったら、英語が出来る人は日本より多いくらいいる

それに中国語だったら漢字という共通点もある為、漢字が出来れば、なんとなく読めば分かる部分も多い。理解する取っ掛かりがあるのとないのとでは大きく違う

しかし、チベット語ともなると、語学が強いアリスにとっても未知の世界であり、加えて、僕たちと行動を共にする中国人キュレーターもチベット語は理解できない。もちろん、このような事態はあらかじめ予測できていたので、チベット側の方から、チベット語と中国語と英語ができるShambaさんを派遣してもらっていた。だが、Shambaさんは、21日間ずっといるわけではなく、最初の一週間くらいで別の場所に行ってしまう日程であることが現地に着いてから発覚する

そうか。。ずっといてくれるわけではないのか。。

コミュニケーションの問題に不安を抱えながら、みんなが揃っている最初の数日間の過ごし方が大事かもしれないと意識する

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それに加えて、わざわざ遠くから来ていただいたPemaの弟で、チベット仏教の高僧でもあるTenzenも間に入ってもらい、チベット語、中国語、ドイツ語、日本語を使って、色々と話し合ったりして、コミュニケーションを取っていく。Tenzen高僧も、最初の何日間しかいない為、最初の何日間かは、作品制作と同様に、色々な考えを伝えあったりすることに重きを置く日々が続いた

そうこうしながら、僕とPemaのコラボレーション作品のテーマを「輪廻転生」として、お互いの持つ死生観を一つの作品に描いていく作業が始まった

Tenzen高僧がいなくなり、Shambaさんもいなくなり、中国人キュレーターも僕たちの展示会の打ち合わせなどの用事があって成都に戻ることになる

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あ。。

気づいたら、僕とアリスの周りには、言葉が通じる人が一人もおらん。。

でも不思議と不安はなかった

何日か経った頃には、僕とアリスとPemaさんは携帯を使ってイメージする画像を見せたり、完璧じゃないものの翻訳機能を使ったりして、コミュニケーションをとりながら作品制作をするようになっていた

チベット語は希少な言語である為、Google翻訳アプリにも入っていない。だからいくつかのアプリを使いながら多少時間がかかっても手間がかかっても辛抱強く相手に伝えていく。うまく相手に自分の伝えたい事が伝わらない時にイライラするのではなく、伝わらなかったら言葉を変えて、言い方を変えて、やり方を変えて、相手の表情を見て伝える。相手に対するリスペクトがあれば、コミュニケーションに手間暇を惜しまないものだ

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アリスはアリスで、いつの間にかPemaの奥さんと生活に必要な情報を話したりできるようになっている

そして、何より、Pemaの子供たちの存在も大きかった。女の子7才、男の子4才、女の子1才の三人なんだけど、僕たちの存在が気になるようで、もちろん言葉は通じないけれど、そんなのはおかまいなしに沢山話しかけたりしてくれた。不思議とそうすると、相手の伝えたいことも分かるもんだ。絵を描く作業に合間合間にも子供達と沢山遊ぶようにした。言葉は通じないけれど、豊かなコミュニケーションがそこにはあった

絵を制作するアトリエでも、僕とアリスとPemaさんは、時折、相手の描いている作業を横でじっと観察したり、気になったら携帯を使って色々と聞いてみたり、そうこうしながら相手のことを理解していった

言語は、人と人がお互いを理解してコミュニケーションする上で大事な要素だ。だが、それ以上に相手の事に興味を持ち、敬意を払い理解しようとする心が一番に大事な事だ。そんな当たり前の事でも、忙しい日常の中でついつい忘れがちになってしまう。今回の旅は、その事を思い出させてくれた

 

カンゼでの21日間に渡るアートプロジェクトの日々も終わりが近づき、僕とPemaさんのコラボレーション作業も無事に終了し、アリスの絵も完成する

「さよなら、またくるよ」

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Pemaの子供たちとお別れの挨拶をして、Pemaの奥さんに感謝を伝え、後ろ髪引かれる思いでカンゼを後にし、車で14時間かけて中国は成都に舞い戻る

そして、数日間で展示会に向けての準備をし、展示会の日を迎える

今回のアートプロジェクトのきっかけをくれたチベット仏教の高位僧である加措活佛も会場に来ていただいて、展示会開幕の挨拶をしてもらう

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絵を通して出来ること。したいこと

 

それはなんだろう

 

絵を描き始めの最初のうちは、ただただ絵を描きたいだけだった。だけれど、色々なプロジェクトや展示会を経験していくうちに絵の持つ深い可能性に気づいていく。言語によるコミュニケーションが前提となるわけだが、絵やアートは、立場を超えて、国を超えて、言語を超えて、その先にいく真のコミュニケーションツールとしての可能性を秘めている

絵やアートは生活に必需ではないと言われている。だが必需とは言えないまでも、人生に必要なものだと思えた時に、その人の人生に豊かなものが待っているように思える

 

展示会の初日も無事に終え、加措活佛としばしの話をし、またの再会を話し合う

 

怒涛のように過ぎ去り、色々なものを感じさせてくれた2019年5月13日から6月10日の29日間

 

色々な繋がりを経て、色々なことが経験できた

 

全ての繋がりにありがとう

 

また会う日まで

 

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チベット紀行 / 完

 

Kensuke Saito

PS. ベルリンに帰ってから、今回の旅を絵やドキュメンタリー映像にしたりと色々な形でまとめています。近いうちに何らかの形で発表できたらと思っています。何か決まったら、またこのブログでお知らせします。

 

チベット紀行 / 完 / 言葉の先にあるもの” への2件のフィードバック

  1. mojalithさん
    素晴らしいご経験をなさいましたね。
    私も観る機会が欲しかったです…特に、異境の地の絵画には感銘を受けやすいですので。

    私の視点は狂っているのかもしれませんが、私は、商業美術とは異なり、芸術としての絵画には共通言語のような要素は全くない、むしろ、対極にあると思っています。
    そうでなければ、私がチンプンカンプンに陥る現代美術(Modern art)の存在が理解できなくなります。

    まあ、ルノワールのような絵画は、共通言語に近いと言えるのかもしれませんがね(^-^;

    いいね: 1人

    1. simple10さん

      コメントありがとうございます。

      芸術の持つ様々な一面の一つに、言語化できない何かを形にするという部分もあるので、僕も前までは、言語化する事に対しての抵抗感がありました。そのうち、展示会を重ねていくうちに、興味を持ってくれる人に接していくうちに、言語による説明は、必須ではありませんが、絵を深く理解してもらうためのガイドラインとして、大事なのかなと思いました。

      アーティストによって、様々なスタンス、バランスがあるのだと思います。

      でも、昔、NYの美術館に行った時に、何の言葉による前知識もなく、マーク・ロスコの巨大な絵を見た事があるのですが、凄い感銘を受け、絵の前から動けなくなりました。あれは、非言語的な感動をもらえた経験でした

      いいね

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