芸術の秋 / 忘れられない人

例年にないほど長く暑かった今年のベルリンの夏もようやく終わり肌寒い秋の季節が到来した

暑かった日々が嘘のように一気に気温が下がり秋を通り越して冬が来てしまうんじゃないかと

ヨーロッパ特有の気候なのか夏が終わると、秋を通り越して一気に冬になっている感じがする

カラフルだった街並みも色彩を失ってグレーになっていき逆に夕焼けのオレンジが目に染みる

ふとしたきっかけで友達とメールのやり取りをしお互いにある監督のファンだった事が分かり嬉しくもなり切なくもなる

レオス・カラックス

フランスの映画監督で「ベティ・ブルー」のジャン=ジャック・ベネックス、「レオン」のリュック・ベッソンと共にフランス映画界を背負っていく逸材とも言われ、1991年に公開された監督作「ポンヌフの恋人」は色々な意味で話題作となった映画である。

それは後で述べるとしてカラックスは今では非常に珍しい芸術家タイプの監督である

アーティストとしてだけでなくビジネスマンとしての才覚を持ち合わせ、ハリウッドに進出してブロックバスター的な作品を手がけるようになったベッソンとは違い純粋に芸術性を追い求めるカラックスはメジャーな存在になりきれずにカルトな存在になっていく

そういうヨーロッパのアーティスト風味の監督の手がける作品はミニシアターという小規模の映画館で公開されることが多く、その代表的なミニシアターが渋谷は宇田川町にある「シネマライズ」という小規模映画館であり、流行の斜め上を追いかけたい「こじらせ系」「電波系」「厨二系」は週末にもなるとそこで公開されている映画を見にいったもんだ。あ、ちなみに分類すると僕は「厨二系」かね

「シネマライズ」の斜め向いにある渋谷PARCO内にある本屋さんとも連動して販促イベントをしたりしていたから映画を観終わった後に本屋で関連書籍を立ち読みしたりね。映画を一つの文化的なイベントにしていく動きがあって、渋谷のミニシアターに映画を観に行くというのが一つの流行りになっていた時期があった。多分、渋谷系とか流行っていた時期じゃなかったっけな。渋谷という街自体がサブカル的に面白い時期もあったのだよ

そのミニシアター文化の中心的存在だった「シネマライズ」が頻繁に取り上げていたのがレオス・カラックスであり、服飾系、デザイン系を中心とする文化系ピープルに人気が高い存在だった。パリのアーティストっていう雰囲気がぷんぷん漂う彼の佇まいも人気が出た雰囲気の一つなのは間違いない

23歳で長編デビューした「ボーイ・ミーツ・ガール」でゴダールの再来と騒がれ、26歳の2作目「汚れた血」で評価を不動のものとした後、満を持して「ポンヌフの恋人」の製作に取り掛かる。ここまではカラックスの人生は順風満帆バラ色だ。しかし、この「ポンヌフの恋人」が彼の人生の良くも悪くもターニングポイントとなる

ターニングポイントになってしまった要因は二つある

前作の「汚れた血」の頃から付き合っていたジュリエット・ビノシュを悲劇的なお話のヒロインに抜擢してしまったこと

撮影許可の問題でパリにある実際のポンヌフ橋で撮影できなくなり、困った挙句にポンヌフ橋とその周囲のパリの街並みを南仏の広大な沼地に丸々セットで組んで再現したこと。しかもセーヌ川つき

この二つが大きい要因となって「ポンヌフの恋人」は製作段階から早くもトラブル続きの問題作のレッテルを貼られてしまう

まず一つ目の巨大セット問題

沼地にセットを組んだりしたもんだから強風でセットが崩壊したりして建て直したりしているうちに今度は急ごしらえで作ったセーヌ川が干上がったりして現場はカオスとなり、お金はどんどん飛んでいく凄惨な現場となってしまいます。そんなこんなやっているうちに映画会社が倒産したり、出資者がいなくなったりします。それでも問題の大元となっている巨大セットで撮影することに拘るカラックス。。何か他に上手いやりようはなかったのかと思うじゃない?

なかったんでしょうね。監督、入れ込みすぎて取り憑かれちゃったんでしょうね

映画には、そういう創っている人を呪い狂わせる魔力みたいなのを持っています

今の時代じゃ考えられないけど80~90年代の映画界にはそういう話が沢山あります

映画が当たって大監督扱いともなり予算は爆発的に増え周囲はみんな言うことを聞いてくれる。そうなっちゃうと監督の元々持っていたであろうオレ様王様気質が爆発しちゃうんです

カラックスの「ポンヌフの恋人」は言うに及ばず

狂気のベトナム戦争をフィリピンのジャングルに再現しようとした『地獄の黙示録』のフランシス・F・コッポラ

マイケル・チミノは『天国の門』という映画で1890年代のワイオミングの町並みを再現しようとして実際の機関車をセットに持ってこさせて、しかも機関車はほんの一部しか映っていなかったり。。

どの監督も映画会社1個潰しています

映画製作会社はその教訓を元に監督の権限を縮小し、お金の管理が出来る製作陣やプロデューサーの立場を強めていきます

その為、破天荒な芸術家タイプの監督は居場所をなくしていきます。。ままま、話が長くなりそうなので。その功罪に関してはまた別の機会に述べるとして「ポンヌフの恋人」に話を戻そう

トラブル続出の過酷な撮影現場でもカラックスは執念で1つ1つのシーンを撮影していきます

しかし過酷な撮影環境が長く続き、いつしかビノシュとの恋人関係にも隙間風が吹いてきます

そんな殺伐とした状況で迎えたこの映画のラストシーンの撮影日

ビノシュ演じるヒロインがポンヌフ橋からセーヌ川に落ちるというシーンなのですが、、ここでカラックスとビノシュは揉めます

ビノシュが川に落ちてそのまま浮かび上がってこない流れにしたい監督

川から浮かび上がってきて生きている流れにしたいビノシュ

うわ。。想像するだけでめんどくせぇ。。

他の大勢のスタッフを待たせて2人は口論を始めます

それはもはや映画の為の議論という名の形を借りたただの痴話喧嘩です

長い議論、、いや痴話喧嘩の果てにビノシュは監督に言いました

『私を殺すの?』

カラックスは川に沈んだビノシュを浮かび上がらせてからに通りがかりの船に拾われて何処かに行かせるという曖昧な感じのハッピーエンドにしますが、時すでに遅しで二人は破局してしまいます。その後、ビノシュは様々な映画に出演して数々の国際的な賞を受賞し、国際的な女優になっていきます

翻ってカラックスは「ポンヌフの恋人」の後、長い沈黙期間に入ります

『ポンヌフの恋人』のトラブル続きの撮影エピソードが纏められた一冊の本があり、僕はパリに住んでいた時にその本をポンヌフの橋のふもとで昼から日が暮れるまでの長い時間かけて読みました。僕自身、その時は人生の問題がわらわら出てきた時で大変な時期だったけれど、世の中にはもっと大変な時期を乗り越えて作品を作り続けているアーティストがいる。そう思える存在がいてどれだけ救われた事だろう

カラックスは映画の出来不出来を通り越して、そういう勇気をくれる芸術家なのだ

ぶっちゃけ「ポンヌフの恋人」自体は映画のみで観るとそこまで面白く無い。だが、そういう裏話や製作当時の歴史背景なども考慮して観てみるとまた違う味わいがあるのですね。ただ面白いだけが映画ではないのだよ。作家の人間性が滲み出てるような。。そんな映画があってもいいんじゃないでしょうか。うん、でもそこまで面白くもないかな。でも何回も観ちゃうんだな。。そんな意味不明な動きしてる時点でハマっちゃってるというコトかもな

長い沈黙期間を経て、カラックスはゴルベワさんという自分の新しい奥さんを悲劇のヒロインに抜擢して「ポーラX」という新作を発表する。

この映画ではゴルベワさんは悲劇を通り越して呪われた存在のような描き方がされていて映画のラストでは車に体当たりして死んでしまうという救いのない暗い映画であり、批評的にもセールス的にも不発に終わり、追い打ちをかけるようにゴルベワさんが映画の内容をなぞるように原因不明な謎の死を遂げてしまい、カラックスは再び長い沈黙期間に入ってしまう

芸術を愛し、呪われた芸術家らしい芸術家

今の時代にはなかなかいない人種でもある

カラックスは「ポーラX」の後、13年も沈黙し、やっと2012年に「ホーリー・モーターズ」を発表するが、その時の僕自身パリに移住したばかりで大変な時期だったのだろう興味を失っていた。自分が大変な時期に大変な映画も見たくないもんだ

だが、前述のふとしたきっかけでメールのやり取りをした友達が「凄い映画ですよ」と教えてくれた。なぜかその言葉だけで嬉しくなった。

人生でどんな大変なことがあろうとも映画への熱を失わないカラックスを確認できたようで関係ない僕まで嬉しかった。僕もベルリンでの生活に慣れてきて徐々に心に余裕が出来始め、美術館に行ったり、アート系映画も再び見るようになっている

日が落ちるのも早くなり夜の時間が長くなる

彼の新作を見てみよう。ホーリーモーターズ。。きっと大変な映画なんだろうな

xx KENSUKE SAITO

p.s. 今もそのままな「ポンヌフの恋人」の巨大セット。後片付けはしっかりと

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